母のお話

のり子、母の貧乏時代の思い出を語る。

2018/02/23

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もう何度も書いているが、我が家はとても貧乏だった。

私が保育園に上がるころに共働きになったが、暮らし向きは一向によくならず、ずーっと貧乏なまま。

しかし両親ともに「お金がないこと=悪」という価値観ではなかったため、貧乏暮らしで心が荒むことはなかったのだという。

そんな貧乏夫婦は、貧乏でこっちが助けてほしいくらいだろうに、人を助けることにとても熱心だった。

同じく貧乏すぎて住む家がない外国の留学生を家に下宿させたり、お金がなくてご飯が食べられない友人を家に招いて食事を出してあげたり。

父は仕事用にスーツを一着だけ持っていたのだが、ある日、

一張羅のスーツを友人にあげてしまった。

その友人も同じく貧乏で、せっかく就職先が決まったのだがお金がなくてスーツを買うことができなかった。

父の職場はだいたい作業着で仕事をする場所だったので、「オレは作業着で仕事をするから問題ない」とスーツと靴を友人にあげたのだった。

たった一着しかないスーツと靴。それを友人にあげたとして、いざという時に別のスーツを買う余裕はウチにはない。

仕事は作業着があるからと言うが、絶対にスーツを着ないという保証もないのに。

だが、それに対する母の返事は。

スーツがなくなっても、自分はものすごく困るわけじゃない。対する友人は、スーツがないと本当に困ることになる。本当に困っている人にスーツを渡すのは当然だ。

父のこの考え方が、母はとても好きなんだそうだ。

父は本当に困っている人をそれとなく助けるのが上手なんだそうだ。助けられた本人も気づかないようにするのだという。

「お父さんが助けたのに相手が気づいてないって、なんか損した気分にならないのかな」

私がそう疑問を言うと、

「本当の親切というのは、相手に気づかれないようにやるもんなんだよ」

と母は言った。

でもそれを実際にしようとするのはとても難しいし、なかなかできることじゃない。

父のような人間を他に見たことがない。

「私はお父さんを菩薩の生まれ変わりかと本気で思ったくらいだよ」

と母はしみじみ言っていた。

そんな母。

スーツを一着しか持っていなかった父と同じく、母もスーツはたった一着しかなかった。

しかもあるのはスーツのみ。

母が就職面接に行く時の服装は、今じゃ見られたもんじゃなかったと思う。

スーツに長靴。ハッキリ言ってアリエナイ。

これで面接に行ったら、まあ普通は落とされるだろう。

母も何社も落とされた。

しかし我が母はポジティブ! ひたすらポジティブ!

「外見はひどいもんだけど、私の中身を見てくれる会社はちゃんとある。私自身を見てくれない会社とはそもそも縁がないんだから、落とされたってどうでもいい」

ポジティブに色んな会社に面接に行き、そしてある会社の入り口で。

面接前に採用になると確信したのだそうだ。

入り口がキラキラ光ってるように見えて、とても明るい空気を感じたらしい。

最初に面接をしてくれた担当の人は、母の服装に落とす気満々だったようだが、途中で係長だか課長だか肩書を持った人が現れて、その人に気に入られて採用になったとのこと。

スーツに長靴という見た目でも雇ってくれる会社があるんだ、と驚くと同時に、母の女の勘は意外と冴えてるな~と感心した。

ちなみに、私の女の勘はなまくらです。

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