のり子、英語の先生の思い出を語る。

2018年7月14日イラストエッセイ, 10代

中学生になったばかりのころの話。

英語の授業を担当するのは、定年間近のおじいちゃん先生だった。

おじいちゃんなのに英語ができるんだ! スゴイ!

英語が全くできない私は、私よりはるかに年上のおじいちゃんが英語ができるということに感動したのだが、その先生、

明らかに英語ができなかった。

授業は教科書の文章を読むだけ。文法は教科書に書かれたことをそのまま言うだけ。

黒板には教科書の文字をそのまま書き写すだけで、自分で作った例文もなければ、教科書に書かれた内容の補足もなかった。

英語が出来そうには全く見えないのに、どうやって英語の先生になれたんだろう……。私はいつも疑問だった。

英語の担当ということは、中間試験とかにはこの先生がテストを作ることになるんだろうけど、英語ができそうにないのにテストを作れるんだろうか。それとも他の先生に手伝ってもらうんだろうか。

私はひそかに先生を心配していた。授業中に例文の1つも出せない先生が、どうやってテストを作るんだろう。大丈夫かな。

だが、その心配は杞憂だった。

テストの数日前のある日。

先生は授業開始とともに無言で黒板に文字を書き始めた。それは教科書に書かれた文章で、いつものように丸ごと書き写していたのだ。

だが、その量が半端じゃない。

黒板の隅から隅まで、すき間がないくらいビッシリと書いているのだ。

先生は一体なにをしているんだ!?

先生の行動についての説明が一切ないため、教室中がざわめいた。だが、先生は一心不乱に黒板に文字を書き続けた。

30分ほどかけて黒板に文字を書きまくった後、先生は、

衝撃の一言を放った。

テストの内容を、そっくりそのまま黒板に書いていたのだ。黒板に書かれたものが、テストの問題そのものだった。しかもすべて教科書に載っている内容ばかり。オリジナルの問題が1つもない。逆にスゴイ。

そんな英語の先生が、ある日大きな袋を持ってやってきた。

あの袋に何が入ってるんだろう。授業で使う備品かな?

そう思っていたら、先生が袋から取り出したのは。

フランス人形だった。

ふ、フランス人形……?

生徒の誰もが戸惑った。このフランス人形が、いったい授業に何の関係があるんだろうか。

生徒の戸惑いをよそに、先生は、

得意げにフランス人形を自慢し始めた。

とっても高いフランス人形で8万くらいしただの、大事に持ち歩くようにしただの、今後、授業中は教卓の上に乗せておくようにするだの、どうでもいいことを鼻息荒く説明する先生。

いつになくペラペラと喋る先生の言葉を意訳すると、

この美しいフランス人形を教卓に飾っておくから、みんなも存分に癒されなさい

ということだった。

それから、英語の授業の時は毎回教卓に座るようになったフランス人形。

先生はことあるごとにフランス人形の話をし、ある時とうとう、

名前をつけてしまった。

なんでフランス人形に日本名なんだ……。

ツッコミたかったが、後日知った事実では、逃げられた奥さんの名前だったらしい。

先生、名づけの理由が重すぎるよ……。

そんな先生は、1年生の終わりに定年退職することになった。

体育館で行われる全校集会で、転勤や退職する先生の挨拶が、1人あたり2~3分の持ち時間で簡単に行われていく中、英語の先生は、

1人で20分ほどしゃべり続けた。

自分の生まれた話から現在までの長い長い自分史をしゃべり続け、途中で他の先生に止めに入られ、最後は引きずられるようにして壇上から消えていった。

あの人は、本当に不思議な先生だった。

ちなみに、あのフランス人形は

「誰もマリコの良さをわかっていない!」

という理由で、ほんの数か月で持ってくるのをヤメていた。その理由も不思議すぎてよくわからなかった。

にほんブログ村 イラストブログへ
にほんブログ村

↑クリックしていただけると泣いて喜びます!↑